○焚火の話
「上質。大人の焚火道」では皆様の素敵な詩や物語を募集しています。優秀な作品は本コーナーにて掲載させていただきます。焚火に関するストーリーなど是非ご投稿ください。
送り先:w e b @ r i p r o m o . c o m(メールを送られる場合は、スペースを省いて入力してください。)焚火の話編集係りまで
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■短編 −焚火のある一日− 京都府 E.Sさん
寒空のした、都会の片隅で気の会う同僚と火を囲む。ただただ火を見つめて、ぼーっとしながら今日一日の出来事を振り返る。「あぁ今日も疲れた…」普段ならため息混じりにつぶやく台詞も、
揺らめく炎を前に、今夜はそうは思わない。ふっと見上げた夜空には澄んだ空気を通して、太古の時代に発信された遠い遠い星の光が瞬いている。
あの星までこの炎の光が届くのはいったいいつになるんだろう。そんなことを考えながら、今日も焚火を囲む。
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■中編 −出発の日− フリーライター K.Tさん
星輝く夜空の下、焚火をはさみ影がふたつ。出発の日、僕はその人と出会った。
僕が生まれ育ったのは日本の南のとある島。自分にとっては何もないところだった。
18歳の秋、僕はこの島を出ることにした。家出同然だった。フェリーに乗り損ねた僕と、宿を取り損ねたその人。
年齢不詳だが、ひげをたくわえた顔はいかにも旅人という感じがした。
旅人「君はこの島が好きかい?」 僕「さあ……どうでしょう。」
この島は漁業の島。多分に漏れず自分の父親も漁師だった。 そして僕も同じ、漁師になるはずだった。
僕「あなたはなぜこの島に?」 旅人「…ここが島だからさ。」
僕「島だから?」 旅人「そう。ここが、最後の島。」 僕「どういうことですか?」
最後の島。その人はその意味を楽しそうに教えてくれた。
旅人「ずっと旅をしてきたんだ。人が住んでいる日本の島をね。」
僕「じゃあ、もしかして…」 旅人「そう。この島が旅の終着駅。」
薪をくべながら笑うその人を見て、僕の心に罪悪感が生まれた。日本中の島を巡ってきたその人には、たくさんのやさしい人々とのふれあいがあったはずだ。その記念すべき最後のしめくくりがこの僕でいいのだろうか。家族ともこの島とも決別し、外の世界へただひたすら飛び出そうとしているこんな僕で。「僕は明日、なんの未練もなくこの島を出るんです。あなたが懸命に時間を削って来てくれたこの島を…。」旅人「…俺は東京生まれでね。せまっ苦しいマンションの一室が俺の故郷さ。UFOキャッチャーのメロディに懐かしさを感じる。そんな生まれ育った街を嫌って旅に出たんだ。
でも、島を出て都会に出る青年と、都会を捨てて島を渡ってきたオヤジ。こんな運命的な出会いができたんだ。この島をゴールにしてほんとによかったよ。ありがとう。」
僕「いや、そんな……。」 そのあと、僕とその人はしばらく燃える火を眺めていた。お互い何か心地いいものを感じながら…そして僕は尋ねた。「東京はどんなところですか?」
旅人「何もないところさ。僕にとってはね。」気の利いた言葉をかけてくれたその人に、いつかこの島に帰ってくる自分の姿が写ったように感じた。
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■短編 滋賀県 Y.Hさん
マッチを擦って、火をつけた。
ほのおが、ゆっくり、広がっていく。
なぜか、ずっと、見ていたい。
不思議な感覚。
焚き火をすると、
人は、たぶん、心のどこかで、
たいせつなことを感じている。
僕の場合、今、自分が、生きているということ。
つらいこととか、嫌なことがあっても
生きていく、それでいいということ。
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